Squid、black midiを通して見るUKポストパンクのリバイバルとロックの再興

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ポストパンクとは

ポストパンクとは文字通りセックス・ピストルズなどのパンクブームの後のムーブメントであり、70年代後半ごろから80年代前半頃の音楽である。

例を挙げるとジョイ・ディビジョンなどの様な、言葉を選ばずに言えば「陰鬱な雰囲気を孕んだ実験的なロック」だ。

一方、現代の音楽シーンは…

「ロックは死んだ」という言葉は様々な文脈で使用される言葉があり、精神性の面を指すことが多かったりもするが、この言葉通り、2010年代以降くらいから世界的に見てもバンドサウンドの音楽が流行っている時代ではない

これはアメリカをはじめとした世界各国のヒットチャートを見れば明らかで、上位をポップシンガーが独占しているのは事実だ。

もちろん私は彼らの音楽を否定したいわけではない。大事なのは現代がそういう時代であるという事実だ。

やっとチャートにロックが入るのは昔からいる大御所のバンドが新譜を出した時くらいだ。

今年であればフー・ファイターズの”Medicine At Midnight”というアルバムがリリース後、アメリカのチャートの3位くらいに入っていた気がする。

またその一方で現代の音楽の聴き方は…

現代の音楽の聴かれ方はもちろんストリーミングが主流。

そしてボタン一つで簡単に曲がスキップ出来る環境は音楽制作側にも大きな影響を与えている

具体的にはイントロがものすごくキャッチーで、かつボーカルがすぐに歌い始めると言われているそうだ。

よって現代はスキップされない曲が流行る曲であり、音楽シーンでは不可欠なのだ。

この条件は様々な流派があれどロック全般に立ちはだかる大きな壁なのかもしれない。

また曲の再生時間も昔ほど長いものは少なくなってきている様に感じる。

よって現代の音楽にはこういった意味での「ポップさ」が必要不可欠なのだ。

またキャリアを通して最近、売れ線に走ってきていると揶揄されるコールドプレイ(私は大好き!)はこの「ポップさ」をうまくバンドに取り込んだのでは無いだろうか。

だから今、世界的にトップクラスの売れてるバンドなのだろうか。

そんな彼らがリリースした2021年の新譜がこちらだ。是非、聴いてみてほしい。

ロックの再興

今年の洋楽シーンを語る上で避けては通れないのがUKポストパンクの台頭だろう。

今年のこのムーブメントはロックの歴史において大きな出来事であると思う。

先に述べた、現代の音楽の流行に反するムーブメントであるからだ。

そして彼らはポストパンクという言葉で扱われるが、その音楽性や制作に挑む姿勢などはプログレッシブロックの様でもある。

それくらい一筋縄ではいかない、雑な言い方をすると難解な音楽なのだ。

そんな現代では流行るはずのない音楽ジャンルが今年、勢力を見せてきたのだ。

ロックもまだ捨てたものじゃないのかもしれない。

ここでは今年注目を集めたバンドの今年リリースの作品をざっくり紹介する。

今年の洋楽シーンの一つ、UKポストパンクをおさらい!

Squid / Bright Green Field

まず紹介するのがイギリス、ブライトンで結成されたバンド”Squid”。

彼らは当初はジャズバンドで合ったがクラウトロックとの出会いの末、独自のサウンドを追求するようになった。

そしてポストロックという言葉だけでは収まらず、ポストロックと呼ばれたりマスロックと呼ばれたりする。

要するに綺麗に枠組みにハマらない音楽性だが共通して言えるのは音楽制作に対して実験的なアプローチを行うところだろう。

そういった意味でその精神性はビートルズのホワイトアルバムやプログレに通ずるものがある。

そんな結果生まれたのが、本作のリード曲”Narrator”である。

壮大なスケールの曲展開により、現代では珍し過ぎる8分27秒の楽曲となっている。

生演奏なのに機械的に感じるビートやリフに反して声が時折、裏返るほどの、がなり声のボーカルが生体的な要素を感じさせるのが面白い。

要するにいろんな要素を混ぜ合わせて独自のサウンドを作り出しているというのが優れた楽曲だ。

またこちらの草原のアルバムジャケットは70年代のプログレバンド、ピンクフロイドの名盤「原子心母」のジャケットのオマージュなのでは無いかと言われているが真相は定かではない。

確かに「草原」という共通点と、そして構図が似ている。

もしオマージュならプログレも彼らのルーツにあるということだ。

black midi / Cavalcade

”black midi”についてはこちらで記事にしているので是非、読んでほしい。

そしてこのアルバム”Cavalcade”は実験性だとかそういう理屈的な話ではなく、自由に「好き勝手やりまくった」感覚で作られたような印象を受ける。

曲展開がスケーラブルなのは他のポストパンク勢と同じだが、彼ら独自の要素として早口なのに朗読的なボーカルであったり、部族のような印象を受ける分厚いブラスのサウンドはキングクリムゾンが一瞬、頭によぎる。

またスケールを無視したピアノの音が急に入っていたりするのも面白い。既存の概念に縛られず、自分達が面白いと思うサウンドを追求したのだと思う。

よって本作は感覚的で自由度が高いというのが第一印象だ。

またリードトラック”John L”のMVはまさに彼らの音楽性を映像化したようなカオスな作品となっているのでオススメだ。

最後に

KISSなどのバンドは皮肉を込めて商業ロックと呼ばれたりすることがあるが、音楽と経済は切り離す事が出来ないのは事実だ。

だから、音楽はその時代ごとに「受け入れられやすい形」が流行する。

そうじゃないと聴いてもらえないからだ。

一方、音楽は芸術であり作者が100%心から作りたいものを作るべきなのだが、そうはいかないのが事実だ。

だから2021年と様々な面で全く別世界な50年も前に流行った手法、思想が通じることにとても感動した。

音楽だけに限らず、流行は繰り返すというが私自身、絶対に復活することがないと思っていたものが新たな要素を含んだ進化した複合化合物として蘇ってきたのだ。

そして現代の音楽リスナーがそれを受け止めたことにとても驚いた

それとも一部の音楽マニアというのは意外と母数が居て、彼らに刺さる楽曲を作るだけで商業的に成功出来るのだろうか。

また、今回はポストパンクを中心に話してきたがロックの再興感じさせるバンドは多方面で見られたと思う。

それは今年、世界中で最も有名になったイタリアのバンド、”Måneskin“であったり「砂漠のジミヘン」と呼ばれる”Mdou Moctor“であったり、あと日本のバンド”Chai“がニルバーナが在籍したアメリカの老舗レーベルSUB POPと契約を結んだのも今年だ。

日本のバンドは英語が下手だから売れないという話がよくあったが、そんなことはないようだ。

過去の音楽も外国の音楽も気軽に聴けるインターネット世代がバンドを始め、グローバルに活躍し始めている。

英米中心の音楽観というのは過去の話になっていくのかもしれない。

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