アルバム解説-狂気(The Dark Side of the Moon)-ピンクフロイド(Pink Floyd)

狂気Level:⭐️⭐️
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プログレの入門にして頂点!

「頂点」という言葉を用いたが客観的な何か根拠がある訳ではない。

ただ私がプログレッシブロックというジャンルの中で一番好きなアルバムなだけだ。

しかし頂点かどうかはさておき、名盤である事は間違い無いだろう。

そして世界で3番目に多く売れたアルバムと言われている。

今回はそんなピンクフロイドの「狂気」について解説、レビューを行っていく。

また歌詞の和訳し、詩的な面からも考察をしていく。

またプログレとは何かについては以下の記事でまとめているので合わせて読んでもらえると嬉しい。

そして邦題「狂気」と呼ばれるこのアルバムはプログレの入門としてもピッタリだ。

プログレなんてジャンルは未聴者にとってはハードルが高く、初見殺しであることはプログレ好きが一番よく納得してるだろう。

しかしこのアルバムは「人間の持つ狂気を表現した」というコンセプトを理解した上で聴くと仰々しいサウンドも退屈ではなく、それぞれ曲ごとに映画のシーンの様な情景が見えて来ると思う。

しっかりとプログレらしい仰々しさを持ちつつも、その魅力を感じやすい為、プログレの入門としてオススメしたい!

また当時のフォーマットであるレコードの特徴を活かし、曲間に区切りが無くメドレーの様に曲が流れて行く。

そしてレコードの表面、裏面の特性上、断続的な世界観を保ちつつも一旦途切れてしまう箇所がある。

その点で彼らがどのような表現をしたかったのか考えるのもオススメだ。

1〜5曲目、6〜10曲目の2部編成にどんな意図があるのか考えるのが面白い。

そしてこの記事を読んで「狂気」についてもっと知りたい!と思った方はローリングストーン誌の記事が面白いので読んでみてくだい。

Speak To Me

曲名は「私に話しかけて」とのことだが最初は何も聴こえない無音から始まる。

そして耳を傾けていると徐々に音が聞こえてくる。

それは叫び声や不敵な笑い声、レジがお金を数える音などでアルバム内の全曲に対するイントロとも取れる。

そして様々なサンプリングの集合体の様で曲と呼べるのかも怪しいところがまさにプログレらしさだ。

Breathe (In The Air)

”Speak To Me”に続きやっと曲が始まる。

不穏感を煽られた後に来るのはプログレの先祖であるサイケの血が濃いこの曲だ。

何故かこの曲が始まると少し安心する。

こんな感じで、もう既に「狂気」の世界に取り込まれているのだ。

人間の持つ狂気」の中で「呼吸」をテーマにしたこの曲は、日々生きていく中での「笑う事」や「涙を流す事」など自分が経験して行くことの全てが自分の人生を形作っていくという歌詞だ。

そして「呼吸をすることの様に当たり前だと思ってたらすぐ死ぬぞ!」というメッセージだ。

You race towards an early grave

君は早すぎる死を迎えようとしている。

On The Run

”Breathe (In The Air)” の終わりと共に流れるように曲のテンポが上がり、転調する。

そして当時まだ珍しかったモジュラーアナログシンセ(特徴的な音を鳴らす鍵盤楽器)が奏でるサウンドが聴き手を急かすような、まさに曲名通り「走り回ってる感」を感じさせる。

歌詞というか曲内で流れている女性の声は空港でのアナウンスであり、「入国審査の方は荷物とパスポートを準備の上こちらにお並びください」といった内容だ。

人間の内に潜む狂気と「走り回る」と入国審査、これらがどう紐付けられたものなのか、どういうメタファーで何を表現したかったのかは簡単には理解できない。

そこを是非、考察し甲斐があるとして楽しんで欲しい。

そしてアナウンスとは別の男の声で以下のフレーズが読まれる。とても意味深である。

Live for today, gone tomorrow, that’s me. Ha-ha-ha-ha!

今日のために生きる、そして明日は無い、それは私のことだ。ハハハハ!(笑い声)

Time

ジリジリと喧しい目覚まし時計と学校のチャイムの音から始まる「時間」をテーマにしたこの曲。

この目覚ましチャイムは誰しも聞いたことがあり、何かしらの制限時間が訪れた事を意味する音である。だから聞くと自然と身構えてしまう。

「人生は長いがダラダラ過ごしていたらあっという間に老人になって何も成し遂げていなかった」なんてことになるぞ!というのがこの曲の歌詞。

人生において欠かせない概念の「時間」は当たり前のように存在おり、どう扱えば良いか誰しも悩んだことがあると思う。簡単に答えが出ないのに。

それでも「時間を無駄にするな!」みたいな事を直球でぶつけて来る感じが少し救いようがない様に感じてしまう。

でもそれが圧倒的事実なんだという点が人生における「狂気」なのだろう。

終盤のギターソロは素晴らしい。よく海外のギタリストYouTuberが「オールタイムベストギターソロ」みたいなのを紹介する時に絶対入っているほどの名プレイである。

このギターソロによって「時間」をテーマにした壮大な曲は最高潮を迎えるがそれで終わりでは無く”Breathe (In The Air)”が流れ出すのだ。

二曲前に戻る事になるのだが歌詞は”Time”独自の物である。人間にとって時間が過ぎる事は呼吸を繰り返す事でもあるし、歌詞のメッセージ性も近いところがあるのだろう。

どちらにせよ、この二曲は何かしらの繋がりを持っているのだ。

そこでの歌詞は「出来る事ならホームであるこの場所にいたい」とか「冷え切った体を温めたい」といった内容である。

私はこの”Breathe (In The Air)”に変わったところから主人公の老後の姿が描かれているのではないかと思っている。

「人生あっという間だったな。残り少ない時間はゆっくり過ごそう」みたいなニュアンスだと思う。

Ticking away the moments that make up a dull day

一瞬一瞬が過ぎ去って行くことで怠惰に過ごす日が出来ている。

The Great Gig In The Sky

アルバムA面最後の曲。”The Dark Side of the Moon”の第一部が終わりを迎えるのだ。

「死ぬのなんて怖くない」という歌詞と共に女性のハスキーなシャウトが響き渡る技巧的というよりは単純に美しい曲だ。

そして”Time”からの流れもあり「人生が一周して死を迎える覚悟ができる」というストーリーが完結してしまった。

まだあと半分あるのに。でもこの主人公は怖くない、怖くないと繰り返すことで「恐怖を誤魔化そう」としている。

そして最後に「君もそうなるさ」と言い残す。

you’ve gotta go sometime

君もいつかそうなるさ。 ※年をとって死への恐怖がなくなる事。もしくは近い死を感じながらも怖くないと誤魔化しながら生きる事。

Money

ひと段落着いて“The Dark Side of the Moon”の第二幕が開演。

テーマは「お金」について。いかにも人間の持つ「狂気」と言えよう。

歌詞は「金なんていくらあってもキリがない、くだらない物を買うだけ」「金は諸悪の根源」といった金に目が眩んだ人間を痛烈に皮肉るものだ。

痛烈に批判ではなく「痛烈に皮肉る」なので曲調はちょっと「おちゃらけてる感」も出ている。

イントロでは「チャリーン」と言うレジのお金の音が入っていたり、ブラスの音がポップ感を出している。

そしてなんと言っても特徴的なギターリフがこの「おちゃらけてる感」の大きな要因だろう。

しまいには「金持ちだったらサッカーチームでも買収しようかな」みたいなフレーズを出してくる。

金に夢中になって、大金で何するかしか考えれない奴らはアホらしいが、そこに陥る人間は少なくない。まさしく金は「狂気」だ。

また「おちゃらけてる感」といったがプログレらしい壮大さは以前として保たれており、サックスソロからのギターソロへの橋渡しなどの展開は圧巻だ。

しかもその間も「おちゃらけてる感」はキープされている。

相反しそうな二つの要素が同時に存在している点において優れた楽曲であると評価したい。

Grab that cash with both hands and make a stash

両手で札を握りしめて蓄えを作れ

Us And Them

第二部は始まったばかりだが「狂気」全体を通して見ると人生をテーマにした壮大な物語を終わらすためには、この段階から着陸体制に入るべきだろう。というわけでエンディングに入る。

ここでは今までそれぞれの人生を生きてきた人達を「戦場の兵士」に例えて「過去において、あの時どうすべきだったとか」そんな事は誰も分からない。

神のみぞ知る。それなのに「他人の文言に惑わされてきたなぁ」みたいなメッセージを我々に与えてくれる。

そして結局何が欲しいのか考えてみるとお茶一切れのパンだと気づく。

そして死に怯えていた老人は亡くなる。死ぬ間際にその欲しかった物が手に入ったのかは不明である。

I’ve got things on my mind for the want of the price of tea and a slice

本当に欲しいものはお茶と一切れのパンだと気づいた。

Any Colour You Like

歌詞は無い「あなたの好きな色」というタイトルの曲。

これは次曲の”Brain Damage”のイントロとも取れる。

そして”Us And Them”で死んだ人間の走馬灯なのだと思う。

それくらい単純な「終わり感」は感じさせず、様々な場面を俯瞰で見ているような感覚を味合わせてくれる。

Brain Damage

直訳すると「脳へのダメージ」となるこの曲は難解だ。簡単に推察は出来ない。

しかしアルバム名である“The Dark Side of the Moon”というフレーズが歌詞に含まれている事から、この曲はアルバム内でのキーになる楽曲であることは間違い無いだろう。

歌詞に出てくる”lunatic”は訳すと「狂人」となるがこれが何を指すのか考察するのが難点だ。

私は狂人とは今までの人生で常に付きまとってきた「自身の負の人格」ではないかと結論づける事にした。

そして歌詞に出て来る”You”は友人のような今まで関わってきた人達を指し、彼らとの付き合いは「負の人格」が邪魔して上手くいかなかった。みたいな内容だと思う。

そしてそれらを踏まえた上で「君と月の裏側で会おう」というフレーズはとても魅力的だ。

月の裏側=“The Dark Side of the Moon”という表現は死を迎えて自分の負の部分も受け入れた上でもう一度「君たちと会おう」という主人公なりの「死の肯定」を意味するのだと思う。

I’ll see you on the dark side of the moon

君と月の裏側で会おう

Eclipse

人間の狂気をテーマにした人生の物語はフィナーレを迎える。

自身の負を受け入れた主人公は太陽の元においてこれまでの人生の全て肯定される。

それは神のような高次元の存在によるものなのか、または全てを悟った自分なのかは分からない。

そしてこの「太陽」は”Breathe (In The Air)” と”Time”でも出て来る表現で抗うことが出来ない「絶対的な存在」のメタファーである。

言い換えれば「時間の流れ」を指し、それを人間に当てはめると「老い」となる。

そしてその絶対的な存在は負のメタファーである「月」によって飲み込まれる。これが曲名の表す「月食」だ。

つまりこの世に完璧な物など無く、全ての存在がマイナスの要素も合わせ持つ

というのが最終的な「狂気」の物語の落とし所だと思う。

そして人間はちっぽけで人生を全うしてからその事に気づくのだ。

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