black midi(ブラック・ミディ)のサード・アルバム『Hellfire』がリリースされた。
昨今のUKポストパンクムーブメントに乗りながらも、独自の路線を行くblack midiであるが今作『Hellfire』の完成度は凄まじいものであった。
評価観点は様々あるものの、私が注目するのが時代に逆行したアルバムであるという点だ。
具体的にはキングクリムゾンを彷彿とさせるようなサウンドでプログレ的なアプローチをし、さらにアルバム全体として“地獄”というテーマを持ったコンセプトアルバムの作りになっている点である。
black midi(ブラック・ミディ)とは
black midi(ブラック・ミディ)については過去の記事を参照してほしい。
また、以下の記事ではblack midi(ブラック・ミディ)が現代の音楽シーンでどのようなポジションを担っているのかなどを考察しているので合わせて読んでほしい。
【アルバム】Hellfireについて
black midi(ブラック・ミディ)のアルバム『Hellfire』について解説、考察していく。
プログレのサウンド
black midi(ブラック・ミディ)は以前から“プログレっぽい”と言われることは多々あった。
楽曲中でサックスがよく使用されている事からなのか、“キングクリムゾンみたい”と言われていたりもした。
しかし本作『Hellfire』こそプログレという言葉がふさわしいサウンドであると思う。
それによって“キングクリムゾンぽさ”も増したかと。
よってアルバム『Hellfire』には現代版のプログレを楽しめるという魅力がある。
このプログレ・サウンドは意図的に狙ったものなのか、自由な発想で作られた結果、プログレのような形になったのかは定かではない。
だが個人的には両方正しいと思っている。
キング・クリムゾンからの影響
black midi(ブラック・ミディ)は過去にキング・クリムゾンの楽曲「21st Century Schizoid Man」をカバーしている。
この事から彼らがキング・クリムゾンから多少なりとも影響を受けていることが分かる。
ちなみにこのカバーの完成度も非常に高く、「21st Century Schizoid Man」がまるで最初からblack midiの楽曲であったかの様に聴こえる。
自由な発想の音楽集団であるblack midi(ブラック・ミディ)
プログレというのは元々、プログレッシブという言葉の通り、“革新的な”という精神の元、作られていた音楽であるが、その精神性をblack midi(ブラック・ミディ)は持ち合わせていると思う。
それは今作『Hellfire』に限らず、キャリアを通して言える事である。
前作『Cavalcade』収録の「John L」という楽曲を例として紹介する。
「John L」には以下のような特徴がある。
- 曲展開が複雑
- 変拍子の多さ
- テンポの加速
これらの特徴から“フリージャズ的”という言葉で表現されたりするのが「John L」という楽曲だ。
つまり、かねてよりblack midiの音楽制作は極めて発想豊かであり、今作『Hellfire』でプログレ的な色が濃くなったとしても驚くことでは無いのである。
コンセプトアルバム
コンセプトアルバムとは“ある一つのテーマや物語性を持ったアルバム”である。
有名なところで例を挙げると、架空の楽団の演奏をテーマとしたビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』、
人間の持つ狂気をテーマとしたピンクフロイドの『狂気』などがある。
そしてblack midi(ブラック・ミディ)の『Hellfire』は地獄がテーマとなっている。
注目すべきは、収録曲ごとに様々な切り口で地獄を表現している点だ。
その手法はピンクフロイドが『狂気』を制作した時のアプローチに近いように思う。
“人間の持つ狂気”という主題の下、お金、死、時間…と楽曲ごとに具体的な内容で章を設けたのだ。
では『Hellfire』に収録の楽曲はどの様な構成で地獄を表現しているのか見ていく。
『Hellfire』で表現される地獄とは
- Hellfire →現代社会という地獄
- Sugar/Tzu →不本意で殺人を犯す地獄
- Eat Men Eat →誤って人肉を食べる地獄
- Welcome To Hell →戦争という地獄
- Still →失恋という地獄
- The Race Is About To Begin →諸行無常な人生という地獄
- Dangerous Liaisons →悪魔に唆されて殺人を犯す地獄
- The Defence →売春宿という地獄
- 27 Questions →死を恐れるという地獄
また楽曲「Welcome To Hell」についてはこちらで私が和訳しているので是非、読んで欲しい。
上記の楽曲たちによって様々な地獄が細部まで描かれており、時には救いようのない歌詞も存在する。
「The Race Is About To Begin」における、どれだけ足掻こうと人生は無駄なまま終わるのである。的な歌詞はサウンド面でも傾倒していたプログレ的な歌詞だと思う。
まとめ:black midiとプログレの精神
今作『Hellfire』の音楽性は結果としてプログレになった訳であって、現代における革新的な新しいサウンドを模索した末の産物が過去の音楽=プログレとなったのだと思う。
black midi(ブラック・ミディ)は音楽に対する精神性がプログレッシブであり、その点において現代のどのミュージシャンも真似出来ない独自性を持つと言えるのではないだろうか。
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