ストロークスのキャラクターを決定づけたセカンドアルバム
まずこのアルバムを語る上でファーストアルバム”Is This It”の存在は無視できない。
だがそちらのレビューはまた後日、記事にするつもりだ。
そしてセカンドアルバムである”Room On Fire”は”Is This It”と音楽性的に同一線上に存在している。
つまりストロークスはこの過程を経て「彼らの唯一無二のガレージサウンド」を物にしたと言えよう
そしてガレージロックリバイバルというムーブメントを率いる一角となったのだ。
そして彼ら独自の個性はいつの間にか「ガレージロック」の基準として扱われるようになった雰囲気まである。
ジュリアンの「ざらついたボーカル」やニックの「シンプルなリードギターリフ」、アルバートの「力強いバッキングギター」、ニコライの「プレベのピック弾きルートベース」、そしてファブの「力強く打ちつけることに特化したシンプルなドラム」などメンバー全員のプレイスタイルがやはり現代の「ガレージロック」のスタイルを築いたように思える。
また次作からは彼らはガレージロックを踏襲しつつも独自のサウンドを追求し始めるため、ある種、この”Room On Fire”は純粋なガレージロックリバイバルの集大成と言えるだろう。
このムーブメントを理解するためには必聴不可欠なマスターピースだ。
そしてこの”Room On Fire”は歌詞の世界観だけで見ると「うまくいかない男女関係」をテーマにしたコンセプトアルバムのようにも見えて楽しい。
What Ever Happened?
「これから何が起こるのか」というタイトルのこの曲は歌詞も「現実逃避をしながら酔っ払っているかのよう」そして「彼女との関係が終わりそう」と何もかもうまく行かない現実に嘆いている。
そしてこのもどかしい感じがジュリアンの歌い方とマッチしてると思う。
I wanna be forgotten and I don’t wanna be reminded
俺は忘れてしまいたいし、覚えていたくない
Reptilia
曲の始まりから早急なビートを刻むのはベースである。
そのベースに率いられてパワフルなイントロが流れる。またメインのギターリフも単純だがクールで耳に残るものだ。
また、この曲の最大の魅力は「ギタリスト二人の個性が交互に現れる」という点である。
そしてギターソロは交互に2回あるのだ。それらにより曲展開のスピード感が失速せずにリスナーの心を掴んで離さない構成になっている。
曲名の”Reptilia”とは爬虫類という意味である。歌詞の中ではどう解釈すべきか難しい。
「意中の女性に手のひらで転がされる主人公のストーリー」と取るならば「獲物を見定める冷血な動物」のメタファーとしてその女性が”Reptilia”なのかもしれない。
I said, please don’t slow me down if I’m going too fast
もし僕が焦りすぎていても落ち着かせようとはしないでくれと言った。
Automatic Stop
直訳すると「自動停止」といった感じだが、この曲は恋愛関係の「自然な崩壊」を歌っている。
そして身内間での気まずい三角関係みたいな状態になっているようだ。
誰しも遠目に見たり、もしくはその渦中にいた経験があるだろう。そのあるあるを歌った楽曲だ。
I was a train moving too fast
僕はスピードの速すぎた電車のようだった
12:51
ガレージロック?と思ってしまうようなエレクトリック調の楽曲だ。
こんな曲も作れるのかとストロークスの音楽性の幅を見せつけられる。
歌詞は誕生日を迎えて、また一つ歳を取ったから若い時のようにパーティーにいこうぜという40代の仲間達のストーリー。
可愛げがありながらも少し切ない感じがサウンドのエレクトロ感と単調なリフからも感じる美しい楽曲だ。
12:51 is the time my voice Found the words I sought
12時51分は自分が求めていた言葉が口から出た時間だ。
You Talk Way Too Much
「全て終わりで後の祭りだ!」という感じな退廃的なロックである。
パンクなどのような「爆発的な怒り」とは対照的なミドルテンポで不貞腐れて少し気だるそうなクールさがストロークス流である。
Give me some time, I just need a little time
時間をくれ、ほんの少しだけ時間が必要なんだ。
Between Love & Hate
ギターがメロディアスな曲。「愛と憎しみの狭間」という曲名からも察せられる通り、カップルが喧嘩別れしそうな雰囲気だ。
Am I wrong?
僕が間違ってるのかい?
Meet Me in the Bathroom
嘘かもしれないけど美女に「バスルームで会いましょ」と言われたら行っちゃうよね。みたいな曲。
リフがメランコリックで「おどけた日常の出来事」のような雰囲気が漂う。
you trained me not to love
君は僕が君の事を好きにならないように調教した。
Under Control
ストロークスなりのバラードの楽曲だ。”Under Control”というのは「どう足掻いてもなるようにしかならない」という意味であり、この曲もまた男女の別れを歌ったものである。
「一緒にいても君の時間の無駄になってしまうから」と切ない曲だ。
ところで、アルバム内の楽曲に様々な距離感、年齢層の「男女関係の終わり」を歌った曲が多いなと感じた。
ジュリアンの作詞の特徴なのだろうか。
We don’t have no control. We’re under control
うまく良い関係を保てないかではなくて、もうどうにもならないんだ。 ※”Under Control”という言葉は直訳すると「制御下」
The Way It Is
しっとりしたバラードに続いて激しいガレージを聴かせてくれる。
イントロの「こもったスネア」が堪らない。そして間髪入れず熱気あふれるリフがくる。
歌詞は「彼女が約束守らないし謝りもしなくてもう別れたい」みたいな感じ。
このアルバム内でよく見る「女性に振り回される」シリーズだ。ジュリアンにそういう経験が良くあったのだろうか笑
パワフルでカッコ良い演奏とは対照的なちょっと可愛げのある歌詞のギャップがこの曲の魅力だ。
I’m sick of you, and that’s the way it is
君にはうんざりだ、本当に。 ※”the way it is”とは直訳すると「全くそのとおり」といったようなニュアンスだ。
The End Has No End
全体的に抽象的な歌詞であるが曲名は「終わりは無い」という意味であり、こちらもある「男女関係」もしくは「人間関係」が良くなったり悪くなったりを繰り返すものの終わる事なく続いていくよ、というように取ることができる。
そして繰り返される”the end has no end”というフレーズと共になり続ける単調なドラムビートは終わりが無く永遠に続く印象を与えてくれる。
また以下のフレーズで触れられる「1969年の楽曲」は彼らが最も影響を受けたと公言している”The Velvet Underground“の「バナナのジャケット」で有名なセルフタイトルのアルバムを指していると言われている。
しかし69年はロックの歴史において名作が豊富なのでそれら全てを指すのかもしれない。
そしてそれらは「今も色あせていないんだ」というメッセージが「終わりは無い」という楽曲のテーマと掛かっている。
“One-nine-six-nine, what’s that sound?” Oh no
1969年の曲はなんて素晴らしいんだ。オーノー!
I Can’t Win
本作の中では珍しい雰囲気の曲。前作”Is This It”に収録されている”Last Nite”という曲に近い音色である。
歌詞は抽象的であるが「今まで馬鹿にしてきた奴ら見てろよ! 1番になってやるからな!」みたいな曲である。
でも結局うまく行かないという歌詞だ。
そしてこの曲に限らず、本作全体を通してストロークスの彼らは凛々しく強気な男達の印象があったが歌詞を見てると弱々しくも、足掻きながら生きる我々リスナーに共感してくれるような人物像なのかもしれないと思った。
“Good try, we don’t like it”
頑張ったね、私達は嫌いではないよ
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