アルバム解説-V-The Horrors

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ゴスから派生したダークなインディーロック

今回紹介するのは”The Horrors”(ホラーズ)が2017年にリリースした”V”というアルバムだ。

”V”はローマ数字で5番目を意味するが、本作は確かにリミックス集などを除けば5作目のアルバムである。

しかしそのような単純な解釈で良いのかは定かでは無い。

ホラーズはデビュー当初メンバー全員がゴスメイクを施し、ファーストアルバム”Strange House”も純粋にゴスの世界観を表現するものであった。

そして彼らはその世界観を拡張していき、さらに様々なエッセンスを取り入れて独自のサウンドをものにしてきた。

それはインディーロックの持つリバーブ感だったり、ヘビーなシンセサウンドだったりする。

そして本作もダークで不気味な世界観を持つがこれは幽霊的な怖さでは無く、SF的な怖さだと思う。

「溶けた人間の顔が混ざり合った」アルバムジャケットや機械という意味の”Machine”という曲が含まれていたり、そして最後の楽曲、”Something To Remember Me By”で問われるような「何が自分を自分たらしめるのか」など、どんなホラーを見せてくれるのか楽しみである。

Hologram

まずサウンド面に注目してみる。高音域に伸びやかなリバーブがあり、それと対照的に低音域で重く歪んだシンサイザーの音がうねりを上げている。

これにより曲名通り「ホログラム感」が表現されている。まるで残像のような音像だ。

そして曲のテーマは「これからの未来は世界がホログラム化され、自身もホログラムとなり永遠に存在し続ける」といった世界観だ。

やはりマトリックスのようなSF的な「実態の無いバーチャルの世界」をテーマとしており、面白い。

All Our Future Days In This Hologram

これからの全ての日々はこのホログラムの中にある。

Press Enter To Exit

歌詞はとても抽象的だが前曲の”Hologram”に近い世界観だと思う。

「目で実際に見えるものだけが世界じゃない、気付かないうちに災厄に飲み込まれる」みたいな世界観だ。特に次に引用するサビのフレーズが印象的だ。

目で遠くまで見渡せたら全てを分かった気になるのは人間の性分だ。

そして歌詞の通り開けたようなサウンドスケープがこの曲の魅力だ。

There’s Only So Far That The Eye Can See

目で見えるのはとても遠くの様子だけ。

Machine

「お前は機械のように冷酷な奴だ」という歌詞。

そしてこの歌詞の魅力的なところは「生物的なものを否定する事で無機質で機械的である事を表現」している点だ。

それは琥珀(虫が樹液に包まれてそのまま死に、化石となった物)や幽霊惑星の死などである。

他のフレーズも魅力的なので是非、歌詞を読んで欲しい。無機質で機械的というのをどう表現したのかを。

そしてヘビィなサウンドが歌詞の持つメッセージ性を強めているように感じ、”never never”というフレーズからは怒りさえも感じる。それくらいパワーのある曲で大好きだ。

 You Will Never NeverNever Be More Than A Machine

お前は絶対に機械でしかない

Ghost

曲名通り亡霊が囁くようなボーカルだ。そして浮遊感あるサウンドがその世界観を支えている。

そして歌詞は「綱渡りをする主人公の物語」だ。目を閉じないように必死だが既に疲れ切っているようだ。

そして曲中に出て来る”come here”(歌詞カードには無い為、定かでは無い)というコーラスは「こっちへ来い」という意味で「亡霊があちらの世界へ手招きしている」という意味なのだろう。

そして曲の終盤でギラギラとしたサウンドへと大きく転調するが主人公は落下してしまったのだろうか

They’re Just Believers Violent Dreamers Rolling Over Endlessly

彼らはただの永遠に転げ落ちていく、信奉者で暴力的な夢追い人達だ。

Point Of No Reply

今までの曲と曲感を共有しつつも歌物の疾走感があるようなナンバーだ。

歌詞はこれまた抽象的でどうとも取れるが「恨みを買った主人公が復讐されるのを恐れる物語」と取れると思う。

そしてこの曲はアウトロが壮大であるが最後は「ブツっと」テープが切れるような演出になっている。

フェードアウトで終わらすのが無難にも関わらず、こうする事で曲の物語の完全な終わりを意識させ、曲の世界観が強調されると感じた。

You Can Bury Me There Where I Lay

あそこで僕が横になってたら君は僕を埋める事が出来るね。

Weighed Down

曲名は”way down”と掛かっており、サウンド面でも「ゆっくり沈み込んでいくような」印象を受ける。

一方”Weighed Down”とは「押しつぶす」というニュアンスの言葉であるが歌詞内では「重荷を背負わせる」という意味で使われている様だ。

これまた一概に解釈できないが死別した恋人が残してきた恋人に対して「愛情が重荷にならないように」と祈る歌詞だと思う。

The WeightThe Weight The Darkness On Your Shoulders

暗黒の重しが両肩に乗っている

Gathering

この曲はいつも通り、ホラーズの浮遊感あるサウンドを踏襲しつつもアコースティックのストリングスが入っているのが珍しい。

そして”Gathering”とは「集まる」という意味だが歌詞の世界観は「ある秘密を握った主人公の潜伏先にたくさんの敵が集まってくる」というものだ。

そして外部の仲間は彼の無事と真実を伝える手紙を期待しているというストーリー。

そして曲は後半になるに連れて壮大に展開していき、映画の様な情景を想起させる。

Dark Winter Weather, Hunters Are Gathering, Each To His Own Side

暗黒の冬空の中、ハンター達が彼の両側に集結している。

World Below

ホラーズらしい、強い歪みがうねるサウンドから始まるが今までの曲にあった浮遊感というよりは彼らなりのポップ感の様なものを感じるパワフルな曲だ。

そして歌詞は複数の視点で描かれているようで難解だ。

World Below”「世界の下側」を見てごらんといった宇宙人の様な超次元的な存在の視点があると思いきや、頭上の景色に歓喜する地底人の様な存在だったり、もしくはその両方は同一の存在なのか。

さらに「世界の下側」とは地球を指しているのかなど、考えるところは山ほどある。

Bright Lights Overhead Always All Times

頭上の眩しい光は常に存在する

It’s A Good Life

曲名の「良い人生」とは対照的に歌詞は「迷走した人生」を描いているようだ。

そしてプログレの様なというか、映画のエンドロールの曲の様な壮大な転調をし、アルバムは終盤であることを我々に悟らせる。

ここで断続的に続いてきた世界観に一区切りつける事で、最終曲である次曲”Something To Remember Me By”をアルバムのメインとして立ててくれる。

You Could Try To Live But You Only Shadow

君は必死に生きてきたが、君は影でしか無い。

Something To Remember Me By

「何が自分を自分たらしめるのか」というテーマの楽曲。

そしてこの曲の面白いところがアルバム内の曲に出ててきた様々な歌詞のフレーズが出て来るという点だ。今までの曲の流れが一筋の物語になってると取れる。

そしてそれらを部分部分で想起することが「自分を思い出させてくれる経験」という事なのだろうか。

サウンド面では相変わらずのホラーズ独特のものに加えてミニマルテクノ感があるのが魅力だ。

そして不気味ながらも特徴的なイントロの効果音が頭から離れない。

また、メンバーが謎の治験に参加させられるMVも面白いのでオススメ。

Now All That’s Left Behind

そして今、全てを置いてきた

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