アルバム解説-ホワイトアルバム-The Beatles

Level:⭐️⭐️

Birthday

邦題;誕生日

2枚目A面がスタート!華やかなノリノリのナンバーである。

1枚目の終盤のしっとりとしたムードと対照的であるからこそメリハリが付くので、長編作品ながらもホワイトアルバムは最後まで退屈しない。

ホワイトアルバム制作時、バンドは以前までのサイケデリック路線に反発してロックンロールへの回帰をテーマとしていた。

そしてその思想の下、クールなロックンロール曲が生まれた。

この曲はインド滞在時に作られたものでは無くレコーディング時のポールのアイディアを基にセッションで作り上げた曲だ。

メインリフのリードギターはジョンとポールのダブルリードギター。これらによって一度聴いたら頭から離れない印象的なリフを作り出している。

歌詞の世界観は「誕生日だからパーティーで盛り上がろう」みたいな感じ。

でも珍しいのが、ただの誕生日おめでとうソングでは無く、「僕も今日が誕生日だから一緒に祝おう、踊ろう!」という内容であり、それが面白い。

It’s my birthday too, yeah

今日は僕の誕生日でもあるんだ

Yer Blues

邦題;ヤーブルース

インドでの厳しい修行中に死にたくなったジョンが作った曲。

曲中にWanna Die 死にたいというフレーズが何度も出てくる。

そこが常にシャウト気味であり、ジョンの魔術的な声もあって、退廃的な狂気を感じる。でもまだ死んでいないのは唯一の理解者Girlが居てくれるからという世界観だが、このガールこそオノ・ヨーコではないかと言われている。

当時はイギリスでブルースが流行っており、その流行に乗るフリをして皮肉も込めたジョンなりのブルースを打ち出してきた。

そして曲の後半では一瞬明るくなるシンプルなロックンロールのギター進行が出てくる。

だが普通のバースに戻るというとこまで一つのパッケージと考えると、「好転しても抜け出せない苦悩」のようなものを感じる。

If I ain’t dead already, ooh girl, you know the reason why

それでもまだ死んでいないのは ガール、君が理由を知ってる

Mother Nature’s Son

邦題;母なる自然の子

ナット・キング・コールのネイチャーボーイの世界観とインド瞑想キャンプでのヨーギーの自然観に基づく講話から着想を得てポールが作った曲。

文字通り「母なる自然」がテーマであり、曲調も壮大で美しい自然を想像させる。

自然と共に暮らす少年のある1日を切り取ったような世界観。そして彼は母なる自然から生まれている。

Born a poor young country boy, Mother Nature’s son

貧しい田舎で生まれた少年。母なる自然の子

Everybody’s Got Something To Hide Except For Me And My Monkey

邦題;僕と僕のサル以外はみんな何か隠してる

曲中に繰り返し出てくるフレーズ「カモン、カモン」の通り元はカモン・カモンという曲名だった。

歌詞にも出てくるMy Monkeyが何を指しているのかが良く考察されるポイントである。

ジョン作のこの曲であるが本人は自身とヨーコの事を歌った曲だと言っているが、クスリを指す隠語でもあるとも言われている。

曲調はけたたましく走り回っているような印象を受ける。カモンカモンと急かされながらもどこか楽しくさせられる。

そしてドラムを中心に曲が収束していき統率が取れてきたところでキメのフレーズ、”Everybody’s Got Something To Hide Except For Me And My Monkey”でフィニッシュ!

Your inside is out when your outside is in. Your outside is in when your insiide is out.

君の外側が内側にあるなら内側は外。そして君の内側が外なら君の外側は内側だ

Sexy Sadie

邦題;セクシーセイディー

こちらもインドで着想を得てジョンが作った曲。

タイトルのセイディーは瞑想の導師ヨギーを投影したものであり、真偽は不明であるが一緒にキャンプに参加していた女優ミア・フォローを誘惑し始め、それに幻滅したジョンが怒りを込めて曲にしたと言われている。

期待を裏切ったヨギーをセクシーで皆を誘惑した末に裏切った美女というキャラクターに落とし込んで表現したのだ。

そしてそのセイディーに対して”you’ll get yours yet”報いを受けるぞ!と言い放つ歌詞となっている。

Sexy Sadie, what have you done. You made a fool of everyone.

セクシーなセイディー、なんて事をしてくれた。君は全員を馬鹿にしたんだ。

Helter Skelter

邦題;ヘルタースケルター

世界で初めてのメタルの曲と言われることもある。

制作に至った経緯は同時期に活躍していたThe Whoのピート・タウンゼントの「今までに無い最も激しい曲を作った」という発言に闘志を燃やしたポールが作った。

曲の最後にリンゴの「指にマメが出来た!」という声が入っているのは有名な話であり、それほど激しい楽曲ということだ。

そしてカルトの教祖、チャールズ・マンソンが「この曲でビートルズが世界滅亡を伝えている」と言い、自身の説く世界滅亡論の根拠とした。

歌詞の世界観を言葉で表すのは難しい。しかし曲調も相まってカオスであることは伝わってくる。

滑り台を滑り、登りを繰り返しながらも相手に対して「愛して欲しいか?」などと問いながらも最後は「恋人にはなれるがダンサーにはなれない」と突き放す。

意味不明だが、リスナーに世界観を想像する余地を与えてくれるのは嬉しい。

Well, you may be a lover but you ain’t no dancer

君は恋人になるかもしれないがダンサーにはなれない

Long Long Long

邦題;ロングロングロング

ホワイトアルバムも終盤に差し掛かり最高潮の激しさを表してきた。

ヘルタースケルター後の束の間の癒されタイム。しかし次にはパワフルなロックンロールRevolution 1が待ち構えている。

ジョージ作のこの曲はボブ・ディランの”Sad Eyed Lady Of The Lowlands”に影響を受けており、ホワイトアルバムの個性溢れる曲群の中で一番地味と言われている。

しかし私個人としては最高潮の盛り上がりとは別にフェードアウト的な意味での「終わりの表現」をしてくれているような印象を受けている。

その意味でホワイトアルバムに不可欠なピースだと思っている。

歌詞は一見”you”あなたへ向けたラブソングのように聴こえるがyouは神を指していると言われている。

それを知ってから歌詞を見るとまた見え方が変わる。神々しい宗教観を歌った曲なのだ。

Now I can see you, be you

今は君がいる そして君と一体になれる

Revolution 1

邦題;レボリューション1

複数あるRevolutionシリーズの一つ。

ホワイトアルバムがリリースされた68年当時はベトナム戦争やブラックバードのインスパイアとなった公民権運動など社会的にも激動の時代だった。

それらの精神性を背負った上でジョンが作った政治的な曲。

「革命」をテーマとしたこの曲はスローだがパワフルだ。

そして時折り、見えるギラついたギターは秘めた怒りのようにも取れる。

歌詞は攻撃的な革命を考える相手に対して、「もっと良い方法があるんじゃないかい?」と問う内容。

You say you want a revolution

君は革命を起こしたいと言ったね

Honey Pie

邦題;ハニーパイ

ポール作のこの曲は意図的に蓄音機のノイズを入れる事でレトロ感を醸し出している。

ポールは自身が子供時代に聴いていたレコードの曲感を再現したかったようだ。

歌詞はハリウッド女優になったかつての恋人、ハニーパイに戻って来てよと語りかけるストーリー。

ハニーパイは食べ物じゃなかった。ワイルドハニーパイから想像するに「着色料たっぷりのサイケなパイを食べよう!」みたいな曲だと思ってた。

Honey Pie you are making me crazy

ハニーパイ、君は僕を夢中にさせる。

Savoy Truffle

邦題;サボイのトリュフ

ジョージが甘党の親友エリック・クラプトンに向けて書いた曲。

サウンドにはディストーションのかかったブラスの音が入っており、お菓子の歌ということも相まって、わくわく感を掻き立てる。

虫歯に悩んでいたクラプトンであったがその彼に対して「どのお菓子を選ぼうか」という歌詞なのが面白い。

また歌詞に出てくるクリームタンジェリーやモンテリマは実際に存在するお菓子で、家を訪れたジョージに対してクラプトンがもてなしてくれた物でもある。

“Savoy truffle”サボイトラフルとはサボイという地域(現在のフランスあたり)のトリュフを指しており、「いろんな魅力的なお菓子があるけどサボイトラフルは食べたら歯が全部抜けるぞ!」というフレーズが面白い。サボイトラフルは何のメタファーなのだろうか。

また歌詞には”Ob-La-Di-Bla-Da”というオブラディ・オブラダを意識したものが出るが何を指してるのか分からない。虫歯の根源とか?

But you’ll have to have them all pulled out after the Savoy truffle.

でもサボイトラフルを食べたら歯を全部抜かなきゃいけなくなるよ

Cry Baby Cry

邦題;泣きなさい赤ちゃん

歌詞の冒頭に出てくるフレーズは”Cry baby cry make your mother buy”泣いてお母さんに買ってもらいなさいという当時のCMのキャッチコピーをジョンがもじったもの。

歌詞の世界観は「彼らの子供を中心とした王と女王の日々を描いた童話」のようなもの。

しかし曲の終わりに突如、”Can you take me back where I came from”元いた場所に僕を返してくれ、と言ったフレーズが出てくる。

これが何を指しているのか難解で今までの歌詞の文脈との繋がりを読み取るのは難しい。

一説にはこの曲はジョン作だがこのフレーズはポールが歌っているということから、ジョンのポールに対する皮肉の意味が込められているのではないか、と言われているがどうなのだろうか。

「もうビートルズは辞めて1人になりたいんだ。分かってくれポール」って事なのだろうか。

いずれにせよ、当時のレコーディング雰囲気が最悪だったのは事実のようだ。

Cry baby cry Make your mother sigh

泣いてお母さんに溜め息つかせなさい

Revolution 9

邦題;レボリューション9

先にも述べたRevolutionシリーズのあるテイクを基に再構築した実験的な楽曲。

この曲はジョン作であるが他のメンバーは様々な効果音サンプリングの集合体であり、曲と呼べるのかも怪しいこの曲を収録する事に大きく反対していた。

一番特徴的な「ナンバーナイン」というフレーズを初め、赤ちゃんの鳴き声や銃声などは英EMIのライブラリーに保管されていた音源である。

そして豊富な音素材だけでなくテープをループさせたり逆回転させたりと贅沢なサウンドコラージュだ。

Good Night

邦題;おやすみなさい

この曲はジョンが5歳の息子、ジュリアンに向けて書いたやさしい子守唄。

壮大なオーケストラのサウンドで構成されている贅沢な子守唄だ。

しかしジョン自身が、歌うことを嫌がった為、リンゴがボーカルを務めた。

長かったホワイトアルバムもようやく終幕。カオスを楽しげに、クールに、時には直情的に見せつけられ、長い映画を観た時のようにリスナー側もお腹いっぱいになった。

まさにエンドロールの曲だ。ようやく長かった物語も終了。「ゆっくりお休み」といった感じだ。

もし、レボリューション9でアルバムが終わっていたら。それはそれで個人的には興味深いが「混沌は身近に存在し続ける」みたいな雰囲気で終わってただろう。

Now it’s time to say good night

もうお休みを言う時間だ

終わりに

初めてのアルバム解説にしてはヘビーなものを選んでしまった。

昔から大好きなアルバムであったが曲によっては「あまり深く聴いてなかったな」と感じるものも幾つかあり、これを機に再び新鮮な気持ちでホワイトアルバムと向き合うことができた。

邦題の直訳感はちょっとダサいけど、これのおかけで読者の方々が曲の世界観をニュートラルに想像出来るんじゃないかと期待しています。

そしていろいろ調べていく中で、まだまだ知らない事ばかりだなと感じました。

今後もこの記事をアップデートし続けることで最強のホワイトアルバム解説書を目指したい。

次回はホワイトアルバムチャレンジ!

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