始めに
ホワイトアルバム内の全曲を深掘りしていきます。
この記事を読む前にアルバム制作時のバックグラウンドについて見て頂けるとより楽しめる内容となってます。
この記事で曲の持つ世界観を伝えたいと考えています。
そして聴いたことがない人にも興味を持ってもらえるように、私がなるべく直訳した邦タイトルを付け、印象的なワンフレーズもピックアップします。
Back In The U.S.S.R
邦題;ソ連への帰還
ホワイトアルバムの最初は飛行機が飛び立つ音から始まる。
リンゴが喧嘩中でいない間に作られたこの曲は、チャックベリーのBack In the USAからインスパイアを受けている。
U.S.S.Rはソ連を指しており、歌詞の内容はアメリカのマイアミビーチから故郷のソ連へ帰還した男の物語。
そして「やっぱり、ソ連はいいなぁ」とひたすら言っている。ウクライナの女の子は可愛いし…とか。
歌い方はアメリカのスター、エルヴィス・プレスリーを意識し、コーラスはアメリカのビッグバンド、ビーチボーイズを意識している。
「アメリカよりもソ連が良いな」という曲でありながらも、意図的なのかアメリカの要素が織り込まれている。
また、ソ連の地名”グルジア”とアメリカの”ジョージア州”の綴りが同じという点を狙ったワンフレーズがある。
That Georgia’s always on my mind
自分の中にあり続けるグルジア(Georgia on my mindというジャズ曲がアメリカにある。)
Dear Prudence
邦題;プルーデンスへ
Back In The U.S.S.Rの飛行機のアウトロが消えゆく中、美しいサウンドのイントロから始まる。
こちらもリンゴ不在の時にレコーディングされており、インド瞑想キャンプ中に瞑想部屋に篭っていたプルーデンス・ファローに「部屋から出ておいで」と問いかける曲。
サイケデリックな雰囲気のこの曲の歌詞は「外は天気が良いし空気も澄んでいて素晴らしいよ!だから外で遊ぼうよ」みたいな曲である。
そしてこの曲で使われているギターのアルペジオ奏法は同じく、インド瞑想キャンプに同行していたドノヴァンから習ったものだ。
Dear Prudence, won’t you come out to play
プルーデンスへ。外で遊ぼうよ
Glass Onion
邦題;ガラスの玉ねぎ
ホワイトアルバム内では珍しく、リンゴが制作に参加しており、印象的なイントロのドラムフレーズはリンゴによるもの。
この曲はビートルズの曲に対して深読みするリスナー達を皮肉った曲であり、過去の楽曲で出てきたフレーズが複数登場するのが聴きどころ。
I told about strawberry field. You know the place where nothing is real.
ストロベリーフィールズについてはもう語ったから、あそこは空想の場所だと分かったよね。
このように歌詞の内容は「今までの曲で言ってきた事はこんな事だよ」的な世界観である。
ただ恐らく真意では無い。曲の世界観の理解を手助けしてくれると思いきや、更に難しくさせられる。
極めつけは世界一難解な曲として知られる”I Am The Walrus”を引用した上での次の歌詞だ。
Well, here’s another clue for you all. The walrus was Paul.
それじゃあ、みんなにもう一つヒントをあげよう。セイウチはポールの事だったんだよ。
ここで皮肉られていた事に気づくが、そこも含めてこの曲はビートルズの世界観を拡張してくれているとも言えるのかもしれない。
”ガラスの玉ねぎ”とは一説では”片眼鏡”(レンズが1つだけのメガネ)のメタファーと言われており、それを通して世界をみた結果、歪んでいるが面白い世界が見えた。
また、この曲に盛り込まれた過去の曲は以下の通りである。
- Strawberry Fields Forever
- I Am The Walrus
- Lady Madonna
- The Fool On The Hill
- Fixing A Hole
Looking through a glass onion
ガラスの玉ねぎを通して見てみな
Ob-La-Di, Ob-La-Da
邦題;オブラディ・オブラダ
レゲエのエッセンスが入った楽曲と言われている(どの部分なのだろう、ベースのリフとかかな)
歌詞は「主人公デズモンドがモリーという女性に恋をする話」である。
最終的には結婚して家庭を築き幸せに暮らすというストーリー。
曲中に何度も現れる”オブラディ・オブラダ”というフレーズは「幸せの為のおまじない」のような言葉である。
この曲はアルバム全体の陰鬱さを紛らわすためにポールが作った曲であり、ホワイトアルバム全曲の中で一番キャッチーと言われてるがメンバーはこの曲を嫌っており特にジョンが酷評している。
しかし特徴的なイントロを生み出したのはハイになっていたジョンだ。
このイントロ無しではこれ程素晴らしい曲にはなっていなかっただろう。
And if you want some fun, take Ob-la-de Ob-la-da
楽しく生きたいなら、オブラディ・オブラダを使おう
Wild Hony Pie
邦題;ワイルドハニーパイ
”Ob-La-Di, Ob-La-Da”の余韻もままならないままに唐突にメランコリックなイントロが始まる。
個人的にはこの曲からホワイトアルバムのカオスが始まると感じている。
ホワイトアルバムの実験性の一部と言えるだろう。
他のメンバーが不在の時に作られたポールの個人作である。
当初、アルバムに収録する予定はなかったが、ジョージの妻、パティ・ボイドが気に入った為アルバムに入れる事になった。
アルバムの中盤で出てくる曲”Hony Pie”との繋がりを考えるのも面白い。
なんの伏線なのか、それほどに固執するハニーパイとは何なのか。全く分からない。
I love you, honey pie!
大好き、ハニーパイ!
The Continuing Story Of Bungalow Bill
邦題;バンガロービルの物語は続く
楽曲の途中でワンフレーズだけ女性が歌ってるとこがあるが、それはオノ・ヨーコの声。
良くも悪くもこの時期からオノヨーコの存在がビートルズに影響を与え始める。(個人的にはオノヨーコはビートルズヒストリーを更に盛り上げてくれている存在であり、とても好きです。ビートルズ解散以降のジョンとの活動も含めて)
余談ですがサークルクラッシャー的な意味の”Yoko Onoing”ヨーコオノーイングという言葉が海外であるそうです。面白い。それほどに影響力のある人物だったことは間違い無さそうです。
インド滞在時に出会った虎狩りで虎を仕留めた時のことを自慢する青年リチャードに出会った時のことを揶揄する曲。
歌詞の世界観はそのまま「少し臆病な男がゾウに乗りながら、ママと虎狩りに向かう話」主人公はトラを狩る事に成功するが、それを見ていた子供達に「殺すのはいけない事じゃないの?」と純粋にも言われてしまう。
すると彼のお母さんが「凶暴な生き物だから良いのよ」と口を挟む。
作者のジョンらしい皮肉の効いた歌詞だ。
“Not when he looked so fierce”, his mommy butted in
お袋さんがすかさず口をはさんだ。相手が狂暴そうなときは別よ
While My Guitar Gently Weeps
邦題;僕のギターがすすり泣く間
ジョージ作の傑作と呼び声高い曲。
制作当初はジョージ自身がリードを弾いていたが気に入らず、そこで友人のエリック・クラプトンを呼んでリードを弾いてもらったら素晴らしい曲になった。
とても仲が良かった二人ゆえに実現した夢のコラボと言える。
歌詞の世界観は「かつての恋人が離れていく様を嘆く」ような歌詞。
その状況を”While my guitar gently weeps”ギターがすすり泣くというフレーズに落とし込んでいる。
そしてクラプトンの弾くリードのギターフレーズは曲名通り、すすり泣いている。
「ギターがすすり泣く」というメインフレーズの曲で「ギターを弾いてくれ」と言われたクラプトンはかなりのプレッシャーがあったのではないだろうか?
それとも彼はそんな事、気にも止めないのか。
いずれにせよ彼でしか実現できなかったような素晴らしい”すすり泣き”を見せてくれる。
I look at you all, see the love there that’s sleeping. While my guitar gently weeps.
君を見ると愛が眠ってしまった事に気づく。その時は僕のギターもすすり泣いている。
Happiness Is Warm Gun
邦題;幸せは温かい銃
アメリカの銃専門誌の記事から引用したタイトル。
激しいながらも不気味な雰囲気を漂わすこの曲は「悪魔に取り憑かれている」という表現をされる事もある。
曲調と歌詞に加えてジョンの独特な声もその要因となっているだろう。
そしてこの”幸せは温かい銃”というフレーズには様々な意味が込められており、そのままの意味に加えてセックスとドラッグだ。
そして「Warm Gunに依存する男の物語」は曲構成も独特で変拍子であり、さらに元々別の三曲だったものを繋ぎ合わせた曲であるため曲の展開が壮大である。
そして最後のフレーズHappiness is warrrrrm Yes it is 〜Gu〜nで一緒に叫びたくなる。
不穏感やカオスな雰囲気が漂いながらも、ここでホワイトアルバム一枚目のA面が最上級の終焉を迎える。
I need a fix cause I’m going down
僕を修理してしてほしい。沈んでいってるから。
※ここでfixという単語が使われているのは「依存していた物を断たれて壊れそうになっている」という意味を暗示している。
Martha My Dear
邦題;いとしのマーサ
壮絶なA面終了後、美しいピアノのフレーズからホワイトアルバムは新たなスタートを切る。
ポールの個人作のこの曲はポールの飼っていた愛犬に向けた曲である。
ちなみにこの愛犬はストローベリーフィールズフォーエバーのMVにも出演していたそうだ。
だが歌詞内ではマーサのことを”silly girl”お馬鹿な女の子と呼んでいたり、見方によっては「マーサという恋人との幸せな日々」を歌っている様にも取れる。
愛しの愛犬を愛する女性というキャラクターに落とし込んだ。
当時の恋人や、この時期に親密になる後の妻、リンダとの関係性など、ポールの恋愛観が見えるような曲だ。
Martha my dear, though I spend my days in conversation
いとしのマーサ、僕の日々は君と会話していたら過ぎてしまうよ。
I’m So Tired
邦題;僕はとても疲れた
前妻シンシアへの気持ちが冷め、オノ・ヨーコへの想いが強くなるなか、ジョンは一時的に不眠症になっていた。
その際に作ったのがこの曲。曲名通り、疲れていたのだろう。
歌詞の内容は「疲れた果てた主人公がこの状態を分かってくれそうな思いを寄せる人に電話するも相手にしてもらえない」という内容だ。
また制作時のインド瞑想キャンプでは禁欲的な生活が強いられており禁煙であった。
これも疲れの原因の一つにあったと言われている。
歌詞には”curse Sir Walter Raleigh”ウォルター・ローリー卿を呪おうというフレーズが出てくるがこの理由はウォルター・ローリー卿がイギリスに喫煙の文化を持ち込んだからその所為で今自分はストレスが溜まってるという事だそうだ。
ストレスもシニカルな歌詞に落とし込むジョンの魅力を再確認出来る。
You know I’d give you everything I’ve got for a little peace of mind
僕の持ってるものを全てあげるから、ささやかな心の安らぎをくれないか
Black Bird
邦題;ブラックバード
アコースティックギターのフレーズが有名なこの曲。
作ったのはギタリストでは無いポール。マルチプレイヤーでほとんどの楽器を一人で使いこなしてしまうポールはもはや、ただのベーシストとして捉えるのは間違いかもしれない。
この曲のインスパイアとなったのは当時盛んだった公民権運動であり黒人女性の人権問題をテーマにした。
そしてブラックバードと例え、「生まれてこのかた、日の目を見なかったが今こそ飛び立つ時だ!」と、しっとりした明るいサウンドながらも力強いメッセージが込められている。
Black bird, fly. Into the light of the dark, black night
黒の鳥、真っ暗なの闇夜に向かって飛んで行け。
Piggies
邦題;ブタ達
自分の肉をフォークとナイフを使って食べる、愚かな豚達を小馬鹿にした曲。
この豚は権力や資本主義の豚達を指しており、とても社会風刺的な曲だ。
「気品ぶってるがアホみたいなことをしてる奴ら、アイツらは一回殴らないと気づかない」みたいな歌詞だ。「糊づけした白シャツを着てから泥の中で転げ回っている」なんてフレーズが出てくる。
ですが曲調は煌びやかで綺麗なハープシコード(ピアノのような楽器、チェンバロとも呼ぶ)の音も入っており、ボーカルは柔らかといった感じ。
この直情的でないとこも含めて皮肉屋集団ビートルズといった感じである。
Clutching forks and knives to eat their bacon
フォークとナイフを使って自分のベーコンを食べる
Rocky Raccoon
邦題;ロッキーラクーン
曲調からも西部劇チックな世界観を醸し出している。
自身の恋人と駆け落ちしたダニエルという男に復讐をしようと試みるが失敗に終わる、主人公ロッキーの物語。
歌詞は時系列と共に進んでいくが、最終的にはダニエルに返り討ちにされてしまう。
また道中で取った宿で謎のアイテム”ギデオンの聖書”を見つけるがこれが何を指しているかは不明である。
だが曲の最後のフレーズでギデオンの聖書が”To help with good Rocky’s revival”ロッキーが復活するのにとても役立つと書かれている為、重要アイテムであることは間違いなさそうだ。
そして調べてみるとギデオンの聖書とは今でもホテルなどで置かれている聖書を指すようだ。だからこれで復活なのか。
ロッキーのファミリーネームであるラクーンはアライグマを指している為、健気ながらも弱そうな印象を与える。
Only to find Gideon’s Bible
ギデオンの聖書を見つけた
Don’t Pass Me By
邦題;僕を置いてかないで
ホワイトアルバムでの活躍が少ないリンゴだが、この名曲を作った功績は大きい。
歌詞は「恋人に振られる主人公の話」曲調も歌い方も明るいのに歌詞を知ると寂しい気持ちになる直情的な歌詞だ。
Don’t pass me by, don’t make me cry, don’t make me blue
僕を置いてかないで 泣かせないで ブルーな気持ちにさせないで
Why Don’t We Do It In The Road
邦題;道端でやらないか
ポール作の曲、インドで見た猿の交尾からインスパイアされた。
この時期、ジョンとポールは徐々に不仲になってきており、特にジョンはポールの作った曲を酷評したりしていたが、この曲に関しては絶賛したそうだ。
だが同時にこの曲のレコーディングに自身が携われなかったことが気に食わなかったそうだ。
No one will be watching us. Why don’t we do it in the road.
誰も見てないから、やっちゃおうよ
I Will
邦題;僕の意思
ポール作のこの曲はベースをポール自身の声で録っている。
そしてジョンがパーカションとして木片や金属片を叩いて作ったものだ。
文面だけ見ると当時特に不仲だった2人が珍しく手を合わせて作ってる感があってなんか良い。
そして歌詞は当時の恋人で後に結婚するリンダに向けたものだと言われている。
「永遠に君を愛そう」という内容の珍しく直球のラブソングだ。
Willという単語からも分かる様に「本気度」のようなものが伝わってくる。
Will I wait a lonely lifetime If you want me to, I will
君が望むなら 一生一人で待ってるよ
Julia
邦題;ジュリア
ホワイトアルバム1枚目はI Willに続きジョンのバラードで穏やかに締め括られる。ひとまず美しい大団円と言った感じだ。
ジュリアはジョンの母親の名前であり、ホワイトアルバム制作当時のおよそ10年前に交通事故で亡くなっている。
そしてその母親への思いを曲にしたものである。しかしこのジュリアには母親だけでなく、愛するオノ・ヨーコも投影されている。
歌詞には”ocean child”というフレーズがあり、これは日本語にすると洋子=ヨーコという意味だそうだ。
またこちらの曲もインド滞在時にドノヴァンから習った3フィンガー奏法を用いていてギターが演奏されている。
Julia, Julia, ocean child, calls me
ジュリア ジュリア 大洋の子 僕を呼ぶ
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